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2010(Sun) 21:51

ハロウィンSS『紀田正臣のとっても大変なハロウィン』

小説

Trick or treat!

つーことで、ギリギリですが、ハロウィンらしいことをしてみました。
十二国記タイプのSSをご用意は出来なかったんですが、今もっともお熱なDRRR!でやってみましたww
タイトルに正臣が入ってますが、大変なのは君じゃなくて帝人様だと思うよ!
時期的には来良組がそろっている半年ぐらいかな。一年目最高ー!



『紀田正臣のとっても大変なハロウィン』

 常におしゃれに気を使う彼には考えられないが、艶やかな似合いの茶髪をくしゃくしゃにハネさせながら、少年――紀田正臣は、街中を疾走していた。
 息を切らせて必死な様子は、どうしたことだろう。
 デートに遅れた? 友達との待ち合わせに遅れそう? いや、違う。

 ――誰かに追いかけられている?

 ――YES.

 ちらちらと背後を振り返る彼は、昼間っから死にそうな顔をしている。
 あまりにも自分を追ってくるものに気をとられた為か、お約束通り前方からやってきた誰か――自分とそれほど背丈の変わらぬ少年とぶつかった。
「うわぁ」
 素っ頓狂な声をあげて、ぶつかってしまった相手は道中で尻餅をつく。
 一方思い切りぶつかった正臣はちょっとバランスを崩しただけで、その場で多々良を踏む。ぶつかった相手には悪いが、なんと要領の良いことだろうか。
「もう、前を見ないと危ないじゃないか。正臣」
 幸いと言うべきか、不幸と言うべきか、彼がぶつかった相手は知人、というか親友だった。
 この行幸を見逃すような元黄巾賊の将軍では無い。凄まじい勢いで脳内で計算をした彼は、親友を自身の困りことに巻き込むことを即座に決め、実行した。
「おお!何ということだろう。我が友よっ!この秋晴れのすばらしい休日の真っ昼間から、独り身なんて、なんて友達思いの親友だろう!」
「僕が休日をどう使おうかなんて、正臣には関係無いよね」
「いやいや、俺は分かっているよ。君は俺の為、今この困難に立ち向かう俺のために、今日、この日、この場所、この時間にやってきてくれたのさ」
「ねぇ、正臣。僕の話を聞く気はある? っていうか、僕にぶつかったことを謝る気はあるのかな?」
「いやいや、立ち上がり給え我が友帝人よ。 そして――お願いだから一緒に逃げてぇぇぇ」
 それまで立て板に水のごとくしゃべり倒していた正臣は、立ち上がらせた親友の手を取り強引に街中を走りだした。
「ちょっと、待ってって……ってええぇぇぇぇっ!」
 引きずり回される少年――竜ヶ峰帝人は、悲しく絶叫した。

∥†††∥

 はぁはぁと息も荒く、二人の少年はいつもならもう一人の少女と一緒につるんでいる公園にやってくる。
 近くの自動販売機――なぜか傷だらけで、イヤに重い錘がついている。盗難防止とか釣り銭泥棒防止とかそういうレベルじゃない。明らかに『何か』を恐れての防止策であろうことは、池袋に住んで半年はたった帝人にも以前からの住人である正臣にも明かだった――から炭酸飲料《サイダー》を購入し、正臣は巻き込んだ少年に投げ渡す。
 そのままペットボトルの蓋をあけ、正臣に炭酸攻撃でも仕掛けようかと思ったが、缶ではなく容量も多く値段が高いペットボトル飲料であったため留保する。辛くも泡まみれになることを回避した正臣ーーもしかしたら、少々の出費でそれを回避出来ることを帝人の『親友』であると自負している彼には理解してたのかもしれない――は、不機嫌そうな親友に目をやり、片目を瞑って謝意を表す。今時珍しく、完璧なウィンクであった。
「で、どうして僕が巻き込まれなくちゃいけないのか、教えてくれるよね?」
 なれた親友が相手というからなのか、帝人とは早速ケータイを取り出し、ながら操作で何かをしている。その指裁きはちょっと驚く早さで、イマドキの若者を自負している正臣も目を見張る。ケータイの扱いにかけては恐らく催促を誇るだろう女子中高生に匹敵する、いやそれ以上なのではないかと常々正臣は思っているのだが、それは口には出さない。
「いやぁ……そこは俺の親友ってことで一つ納得を――」
「出来ないから、聞いているんじゃない」
 ピッと電子音を慣らせながら、作業を終了させた帝人が正臣を見つめる。
 ――あー……困ったなぁ。“まだ”、教えるわけにはいかないしなぁ。
 ガリガリと頭を掻くと、正臣は用意しておいた『嘘』を口に出す。――嘘というよりか、遠回りの答えと言うか。
「杏里も誘って、ハロウィンパーティーでもやろうかと」
「……はろうぃんぱーてぃ?」
 よく分かっていないのか、帝人の口から棒読みの言葉が漏れる。
 いや、理解しているのだ。――そんなことなら素直に僕にも相談すればいいのに。確かに帝人の顔にはそう書かれており、だからこそオウム返しをしたのだ。
 そして、可愛い顔して必死な正臣がふれたくなかった重大なことをいってしまう。
「この街に、今日いるだけで、十分ハロウィンは満喫できるんじゃないかな?」
 自販機を素手で投げ飛ばす金髪バーテンダーとパルクールでその攻撃を交わすジャケットプレイする情報屋とロシア人なのに寿司屋の店員である二メートル近い黒人と、赤い目をした増殖する妖刀に取り付かれた人々に、ガスマスクをする白衣を着た変人と人を切り刻むのが大好きなその息子の闇医者。そして――何よりも怪異である妖精デュラハン・首なしライダーがこの街にいるのだ。
 年中ハロウィンパーティーだろうという、あからさまな視線を込めて、帝人は正臣を見つめる。
「そ、そーですよねー」
 乾いた笑いを顔中に張り付け、がくりとうなだれる。
 実に言われたくなかった言葉だ。
 その言葉を最後に自分を置いて、どこかにいくかと思われた親友は、しかし、くすりと笑って遊具から立ち上がる。
「僕は何をすればいいの?」
 この親友が、実は『ダラーズ』の創始者であることなど微塵も知らない正臣は、自分が手に入れた行動力のある親友の力なぞ全くわからないだろうが、彼は親友の今日一日という時間を手に入れたことだけは明らかだった。
「おお、我が親友よっ!」
 抱きしめようとした正臣を最小運動で回避した帝人は、あきれながら親友の頭を軽く小突いた。

∥†††∥

 そして、過ぎ去る時間は十時間。
 本当は、帝人と杏里と一緒にハロウィンを楽しみたいだけで、街中を必死に走り回って二人を探していただけなのだが、途中で女の子をぞろぞろと引き連れた自分の天敵のような包帯まみれの男と遭遇し、軟派師としての直感で違いにシマを分けあって離れていた最中に、運良く一人目の親友である帝人とぶつかったのである。
 頼みの綱であるはずのケータイは、電池切れ。帝人と出会った後にコンビニで充電電池を購入し、杏里を呼び出した。
 街中はハロウィンの最終日にふさわしい最盛期で、休日と言うこともあり実ににぎやかだった。
 カボチャ提灯《ジャック・オー・ランタン》に骸骨。かわいらしいデフォルメされた吸血鬼やゾンビのキャラクターに、マジモンのホラーメイクをあしらった大道芸人なんかも出現していた。
 気がつくと、帝人はちょくちょくケータイをイジっていることもあるのだが――これは、『ダラーズ』の管理人として、ハロウィンである当日の演出をちょっとがんばっていた訳なのだが、この辺の特殊な演出はその後語りぐさになるのである。しかし、それはまた別の話である――、楽しそうに街の喧噪に酔っている。
 突然呼び出された杏里も、猫耳カチューシャをつけられ、魔女っ娘コスプレをさせられるというとんでもない格好なのだが、今日という日が彼女を麻痺させていた。

 最初は電池切れで親友のケータイに連絡をとることも出来ず、同類と鉢合わせして軟派するシマを荒らされてあわてて住み分けする羽目になったが、親友とその彼女候補と楽しいハロウィンを経験でき、実にすばらしい一日だったと紀田正臣は満足していたのである。

 が――悲しいかな。怪異や非日常を愛する彼の親友竜ヶ峰帝人は、最後に極めつけの『怪人』を引き当てた。
 三人で仲良く街中を歩いていた帝人は、またなにやらケータイを取り出し作業をしていた。そして、そんな「ながら作業」をしていたため、反応が遅れてしまった。
 そして、それは起こったのである。

 街中で歩いていても、彼は常に自分の周りが開けており、まるで花道を歩いているかのようにどんな人混みでも空間があることを知っていた。
 自分に喧嘩を売ってくる奴――彼を知らない奴か、思い出すだけで虫酸が走るようなあいつ――以外は、彼をまるで避けるように、いや、実際さけているのだろう。彼の歩む先は常に開けていた。
 前方から、三人の高校生がやってくるのが見える。仲良く男二人と女一人の三人組はこの街中でもよく見るグループ構成だが、彼がよく知っている人物たちでもあった。今日はハロウィンというお祭りみたいなものと知っていたので、自分のような男と鉢合わせしては悪いだろうと、少々気を利かせて、開けた道からはずしたやった。それが、間違いの元だった。
 常にはしない、気の利かせ方が、衝撃を生んだ。

 ドンッ!

 軽い衝撃音が人と人がぶつかった事を周囲の人にしらしめた。
 ふつうなら、その後の軽い謝罪や下手すると喧嘩が始まったりする街なのだが、先ほどまでの喧噪が嘘のような静まり返りである。
 その街、その通りにいる人たち皆が、固まっているのであある。
 金髪バーテンダーと中肉中背の少年がぶつかって、少年が道中にしゃがみ込んだ。
「いったぁ~。……ったく、今日は本当によく人にぶつかるなぁ」
 つぶやいた少年こと帝人は、そこで自分の声がこの街中であからさまに響くことに気づく。そして――そっと頭上に視線を向け、愕然とした。
 自分を見つめる多くの驚愕の表情と、親友二人の不安と恐怖の混ざった顔。そして、何よりも自分を見つめるぶつかった相手の何も表情を伺えないサングラスの向こう側にある視線。
 ――あ、やばいかも?
 冷静に状況を確認した帝人は、しかし、ただの人でありながら、もっとも怪異に近い人間でるこの街で有名な金髪バーテンダー・喧嘩人形こと平和島静雄との遭遇に心を躍らせてさえいた。
 そっと立ち上がった帝人は、ぶつかった事を謝ろうと口を開こうとして、静雄の背後から顔をのぞかせた彼の上司と目があった。
「俺に任せろ」といわんばかりの、正臣とは違う大人の威厳と色気を漂わせたウィンクをした。
「静雄、今日はハロウィンだそうだ」
 その言葉が一体何だというのだーー!
 周囲にいる野次馬たちは、今まさに少年がこの男の拳の餌食になるんじゃないかと冷や冷やしているのに、彼の上司は冷静にそんな事をいうのかと、怒気を募らせる。
 しかし、その言葉を聞いた静雄は、じろりと帝人の全身を汲まなく眺め、言った。
「……ォ……ト」
「……え?」
 聞き返した帝人に、今度は周囲の野次馬にも聞き取れる様に大きな声を出して凄んでみせた。

「トリック・オア・トリートっ!」

 杏里が猫耳の魔女っ娘のコスプレをしているのなら、帝人は牙とマント姿が有名な吸血鬼の格好をしていた。ふつうなら、帝人がその合い言葉をいうのが似合いなのだが、先ほどから何度もいうようであるが、静雄こそこの街の「怪異」そのもの。その人である。自分が「人外」に見られている事など知っている彼は、自ら口に出して肯定したのだ。恐らく自分の言葉に傷つきながら。
 だが、この日に「人間」に向けてその言葉をいうのがこれほど似合う人物もいない。
 そして、今まで吸血鬼の格好をして、その合い言葉をいってお菓子をいっぱい集めてきた帝人は、自分の行動を今度こそ間違えなかった。
 かき集めてきたお菓子をめいっぱい差しだしたのだ。
 そんなにたくさんのお菓子が欲しかった分けでも、そもそも騒ぎになりそうなこの場を納めるつもりで口走った合い言葉なので、彼はその中から一つだけ選んだ。奇しくも、帝人が一番気に入っていた高級なお菓子であるのだが、視線で未練がましく追うだけで、口に出して帝人は恨めしそうな言葉を紡ぐことはしなかった。
 その顔が余りにもおかしかったのだろう。やっとくすりと静雄は笑うと、帝人の頭をくしゃりと掻き回し、隣にあったペロペロキャンディーで許してやった。

 ひらひらと手を振って去りゆく静雄と、「気をつけなよ、にーちゃん」と言って去ってゆく彼の上司に、最早最敬礼で挨拶した帝人に、周囲も親友たちもほっとするのであった。

「……今日、一番のイベントだったと思うよ」
 帝人のつぶやきに、正臣は万感を込めて言った。
「それは、俺の台詞だ」
 しゃがみ込んだ正臣――フランケンシュタインの格好をしている――は、地面にしゃがみ込んだ情けない姿だ。
 その場で臨戦態勢だったのは、罪歌である杏里だけだったとは、二人の男は終ぞ気づかなかった。

 そうして、親友二人を巻き込んだ楽しいハロウィンになるはずだった彼の一日は、最後に特段の爆弾の処理をこなし、時間に追われてた正臣の大変忙しいハロウィンとして、終わるのであった。


 めでたし、めでたくもなし。

《了》

This fanfiction is written by Ryoku.




突貫工事の代物ですが、お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞーってことで、お菓子ご用意しましたw
食べておなか痛くなったとか、そういう苦情は聞かないぞ!



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