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2011(Mon) 21:19

『約束の花』空様に捧ぐ。/六周年記念リクエストSS

小説

ひ、ひっさびさすぎて怒られそうなんですが、漸くできました。
すみません。空さん。

去年いただいたリクエスト。今頃あげました。
と、とりあえずどうぞ~~:(;゙゚'ω゚'):




 初夏の蒸し暑さを感じさせる風の湿ったさに顔を歪め、彼は一心不乱に庭いじりをしている青年――実は、少女――にそっと声をかけた。
「何故、貴女様がそのようなことを」
 あたりを憚りながら野良作業をする衣服に身を包つむ主上を慮り、声も小さい。
 そんな彼の気遣いなど全く意に介さない彼の主たる青年――何度も言うようだが、彼女は「少女」――は、くっと威勢の良い笑みを浮かべた。
 それは、彼よりも余程「漢らしい」笑いで、彼が思わず見惚れてしまう程の威力を持っていた。

「馬鹿《うましか》なのか、お前。この花を他人に世話させたら意味ないだろうが」

 青年――少女の言葉に、眉根を潜めて、本当にわからないという顔で彼は尋ねた。

「何故なんです?」

 その言葉を聞いた少女の形相たるや、見物であった。
 鬼や般若もかくもや。
 初夏の湿った暖かさに包まれた空気が、一気に極寒の冬の最中に突き落とされ、かと思うと一気に沸点に到達した地獄の釜から吹き荒れる蒸気さながらの熱風が彼を包んだ。
 春、夏、秋、冬。
 そのいずれの気候の庭院を作ることが可能な金波宮の中で、きっちり城下の気候と同じ初夏の暦を反映している小さな庭院は、常世の冬場でも夏の花を彩ることが可能なハウス栽培さながらの狂った気候に変わってしまった。

「お前がそれを言うのか景麒ぃぃぃぃ!」

 少女である彼の主――「主上」についての何か重要なことを忘れてしまうという、あり得ないことをしてしまっていることを認識した景麒と呼ばれたひょろ長い身長の男は、慌てて取りなそうとして、少女が渾身の力を込めて振りかぶった――教科書に載せたいような見事な投球フォーム――真っ直ぐ《ストレート》に投げた肥料の混ざった柔らかかったはずの土の塊を顔面で受け、昏倒した。

 景麒ーーー!という悲鳴が女怪やら使令から聞こえるのだが、少女に常に付従う冗祐と班渠はクスリと笑うとそっと囁く。
≪その辺にしておいて頂けませんか、陽子さま≫
 意図的に「主上」という言葉を、彼女の御名たる陽子と親しく呼び、諫めてみる。
 だが、怒りが収まらない彼女は、くっと歯を食いしばって彼女が世話をしていた小さな蕾をつけた花花を見やる。

「アイツが謝らない限り、今回は許さないからな」

 景麒が自分の何が至らないかを理解したならば、許そうという言葉と変わりは無いのだが、ここが彼女が譲歩できる最大限であると理解している使令たちはそっと伏礼して≪御意に≫と答えた。
 伏礼をされることが大嫌いな陽子の前でわざわざそのような礼をしてきたことが、使令たちも今回は自分の主たる景麒が悪いと思っているのだ。
 使令たちは、決して「いつも景麒から謝っているのに……」とは、言わなかった。

「景麒の馬鹿《ばか》っ」

 ぽそっと小さくこぼれた罵声に、如何に彼女が傷ついているかを悟った使令たちは「これは長引くかもしれない」と、主の不憫をそっと嘆いた。


『約束の花』


 崇高美、究極の美、または神秘という意味の花言葉を持つ花車《ガーベラ》は、七月の花だ。
 占いに興味のある蓬莱の女子高生などにしてみれば、花車《ガーベラ》は十月の誕生花というだろう。
 しかし、春から秋まで咲き誇るこの花の見ごろは三月から七月のことで、初夏の今頃が一番綺麗なのだ。
 そう、景麒の主たる陽子が蓬莱から帰還し、予王の妹である舒栄を打ち破った七月の花である。
 年初めに浚うように蓬莱から常世へと陽子を連れてきて、勝手に失望して、そしてその手を放した。次に景麒が彼女を見たとき、花車《ガーベラ》の花言葉が似合うような神秘性を秘めた凛々しい女王として彼の前に現れた。
 花言葉から人々は景麒を連想するのだが、それは違う。
 泥を啜って逞しく成長した、陽子の事なのだ。
 王だけが実らせることができる里木からこの花の種が実ったとき、その花言葉を聞いた景麒はすぐに主上である陽子を連想した。
 一目で気に入った花に、人々は「これは景麒が好きな花」として認識したが、そうではない。
 『景麒が陽子を連想して好きになった花』が正しいのだ。
 まるで、自分自身を慈しむかのように花車《ガーベラ》を育成する姿は、民草のことばかり気にして自身を後回しにしてしまう陽子が、自分も大切にしているかのように思え、景麒はとても驚いたのだ。

 そして、だからこそ、受け答えを大いに間違えてしまったのである。
 後で庭院の脇にある四阿で目が覚めて、すべてを思い出すと、思わず低く唸った。
 ――あれでは、主上が怒られても仕方がありませんね。
 土塊は女怪である芥瑚がふき取り、介抱してくれたようだ。
 心配そうに見つめる芥瑚に短く礼を言い、近くに潜んでいる驃騎を呼び出す。
≪およびですか≫
「主上はどちらだ」
≪班渠がお傍におります≫
「――……ご機嫌は?」
 その言葉に初めて驃騎はちらりと主を見やる。そこには豹の顔に笑いが張り付けられている。
≪冢宰も癒し担当である蘭桂どのもお困りの様子。――最悪でございます≫
 軽い笑いを含んだ声で答えられ、景麒は「余計な事は言わぬで良い」と窘めるが、常にも増して眉間に皺が寄っている。
 ほうっと深く息を吐き、驃騎にいう。
「先触れを。景麒がお会いしたいと申し上げよ」
 大丈夫かなぁ?という優しい使令の視線をぴしゃりとやり込め、景麒は立ち上がった。

 会いに行く途中で、自分の庭院から何種類かの花々で作り上げた小花束《ブーケ》を拵えて。
 ご機嫌取りに、花を利用するとはこしゃくなっ!などと言って怒られそうだが、おそらく大丈夫だろう。
 ようは、景麒が陽子との約束を覚えていればこんなことにはならなかったのである。
 白百合、鉄線《クレチマス》、年中咲き誇る露草、撫子から作られたそれは、花言葉も相まって、溜飲を下げてくれるのではないかと期待した。

 事実、そっと謝罪に出向いた景麒が手渡した花々を見て、呆れたように笑った陽子は、ぼそっとつぶやく。
「……なんだって、ここまで覚えていて、さっき忘れていたんだよ」
「初夏の陽気に当てられたとしか思えません」
「――良い言い訳だな」
 花を愛でながらの苦言は、笑顔と共に。
 麒麟を喜ばせる言葉でしか無かった。

***

「台輔は、なぜあの花を選んだのです?」
 ご機嫌取りに悪戦苦闘した冢宰から疑問に、景麒はかたり、と小首を傾げる。
「ああ、あれは――」
 浩瀚が知らない、陽子がこちらに来てから初めて成した景麒救出劇に関する事で、捕らわれの身で何もできなかった景麒が陽子の成長を目の当たりにした出来事だった。
 その感謝を示す花々であるのだが、何時もやりこめられることの多い彼は、有能な冢宰である浩瀚に、今回だけは秘密にしようと思った。
「威厳と美しき高潔さ、可憐でありつつ変わらぬ尊敬の念を込めて――という所でしょうか?」
 珍しく口角を上げている景麒に驚き、浩瀚は彼がその場から離れて、遠く豆粒ほどの姿になるまで珍しいことに放心していたのだ。

「ああ、あの『花言葉』は――」

 彼も主上から教わった蓬莱の花言葉の中にあったはず。
 そして――それが、七月の花言葉であったことを理解して、くすりと笑みをこぼした。

「次は、我々の害にならないようにして頂きませんとね」

 おそらく浩瀚のつぶやきは、金波宮の住民の総意であろう。
 少しずつ歩み寄る、前女王とは違う主従関係を作ろうとしている麒麟と若い女王の今後を願い、浩瀚は景麒の大切な約束を暴こうとはしなかった。

 七月の名花を添えて、貴女に思いを――。

《終劇》

This fanfiction is written by Ryoku.





という事でラストのリクエストです。
以下このようなリクエストをいただきました。

1 空(くう)様
2 十二国記
3 浩瀚と陽子さんがだめなら、景麒と陽子さんでお願いいたします。
4 さっぱりほのぼので、できれば使令さんたちを出していただけると幸いです。もし、もう少し場面設定があったほうがよければ、6~7月でなにか植物を入れていただけるとうれしいです。作物でも道端の草でもなんでもOKです。



景麒さんと陽子さんのドタバタ。最後に出来る冢宰浩瀚を連れてきましたww
七月の植物って色々あるんですねー。
花言葉を漁るのが凄く楽しかったです。

上記SSは空さまのみお持ち返りokです!
この度はリクエストありがとうございました。

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